大阪高等裁判所 昭和55年(う)1199号 判決 1980年12月03日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人北島孝儀作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一について
論旨は、要するに、原判決は原判示第一の罪を原判示累犯前科との関係で再犯にあたるとしてこれに刑法五六条一項、五七条を適用して累犯加重をしているが、同法五六条にいう五年の期間の起算日は刑期終了の翌日ではなく受刑の最終日であると解すべきであり、本件の場合被告人は右前科の刑を昭和五〇年三月五日受け終つたものであるから、右五年の期間の最終日は昭和五五年三月四日であつて、同月五日に犯した原判示第一の罪は累犯にあたらないといつて原判決の法令適用の誤りがある、というのである。
記録を調査すると、被告人は昭和四九年八月二〇日大阪高等裁判所で道路交通法違反の罪により懲役二月に処せられ、昭和五〇年三月五日右刑の執行を受け終つたことが認められるところ、原判決書によれば、原判決は被告人が昭和五五年三月五日犯した原判示第一の道路交通法違反の罪につき懲役刑を選択したうえ、右前科との関係で累犯にあたると認め右懲役刑に刑法五六条一項、五七条を適用して再犯の加重をしていることが明らかである。そこで検討するのに、同法五六条一項の懲役刑の執行を終つた日とは同法二四条二項の規定との対比上、受刑の最終日であると解され、本件においてはその日は昭和五〇年三月五日であるが、同条項の五年の期間の計算にあたつては、起算点についての別段の定めがないから、民法一三八条により同法一四〇条の規定の適用を受け、初日である右五日を算入せずその翌日である同月六日を起算日として計算することとなるため右五年の期間の満了日は昭和五五年三月五日となる。所論援用の大審院大正五年一一月八日判決(刑録二二輯一七〇五頁)は、刑法二四条一項において受刑者の為に利益になる計算法を定めていることを理由として、右五年の期間の起算日を刑期終了の翌日ではなく受刑の最終日であると解すべきものとするのであるが、懲役刑の執行は受刑の最終日の午後一二時まで継続するものであるから、その日を起算日とすると、その日に懲役刑に処すべき罪を犯した場合にはいまだ刑の執行が終つていない犯罪につき累犯として加重することとなり妥当でないと解されるから、所論は採用できない。そうすると、前記前科にかかる刑法五六条一項の五年の期間の最終日に犯した原判示第一の罪が右前科との関係で再犯となるものであるから、これに刑法五六条一項、五七条の各規定を適用した原判決には、所論にいう法令の適用の誤りはない。論旨は、理由がない。
控訴趣意第二について
論旨は、量刑不当を主張するものであるが、所論にかんがみ記録を調査し当審における事実の取調の結果をも参酌して検討すると、本件は、普通乗用自動車の無免許運転二件の事案であつて、各犯行の罪質、動機、態様、被告人の経歴、前科等の諸事情、殊に被告人には前記累犯前科があり、その内容が本件と同種の無免許運転を含む交通事犯であることや右前科の刑の執行終了後にも本件と同種の無免許運転の罪による罰金の前科があることに徴すると、被告人の法無視の態度は許されないから、所論指摘の被告人の反省状況や被告人の服役によつて生ずるその営業上の支障等を十分考慮しても、被告人を懲役三月の実刑に処した原判決の量刑が重過ぎるものとは考えられない。論旨は、理由がない。
よつて、刑事訴訟法三九六条により、主文のとおり判決する。